「シェエラザード (上下)」/浅田 次郎 講談社最近凝ってます、浅田 次郎作品。
今回は昭和の戦時中を舞台に豪華客船、弥勒丸と誇り高き乗船員たちが「日本人の良心」を回って繰り広げる壮大なお話。
この作品も王妃の館と同様に現在の金塊をどっさり積んだまま沈んだ弥勒丸を引き上げようとする主人公たちと、弥勒丸が現役だった頃の話が1章ごと交互に書き分けられています。
個人的に現在の方の話は弥勒丸の生き残りたちのエピソードを除いては興味を惹かれなかったのだが、昭和の弥勒丸を回る方はとても面白くてどんどん吸い寄せられているのがよく分かった。
珍しく乗船員のひとり一人が何らかの重大な鍵となっているんですが、中でも正木中尉が最も作者が描きたかった日本人らしさを持っているんじゃないかなと思いました。
現代の主人公、軽部たちに引き上げの話を持ちかけてくる宋老人に隠されたトリックはいい意味で期待を裏切らないでくれていたし、それでいて戦時中をモチーフにした故に起こる独特の物々しさは逆に作品の重厚感へ結びついていてバランスのいい作品だと感じた。
浅田氏の別の歴史小説で中国を舞台にしたものは意外と笑いを取るシーンがあったのだが今回は一切なし、ちょっと残念。シェエラザードは舞台に流れる雰囲気に重きを置いているようだね。
昭和編の乗船員はもとより船長も責任者派のエリート少佐も誰一人知らない金塊を上海に運ぶ謎だらけの特務の計画実行者の小笠原と土屋のジレンマも見どころ
いや読みどころかな?あまり言ってしまうとあの心地良い緊張感が減ってしまうのだが、愛しい人たちを守りたいがために自分の手で船に乗せてしまう………という行いとその後の特に土屋の生き様が妙にもの哀しげでたまらんのだww
……もっとも私が好きなのは堀少佐と正木中尉の船が沈没するあたりのシーンなんだけどなぁ。
最近になって気づいたことがあって、浅田次郎の作品はほとんどがラストを明確に書かない。
それは読者への多少の不満さと引き換えにどんなに悲しい結末でもその後に希望が与えられるかも知れないということなんじゃないかな。
シェエラザードもそんな作品の一つに違いなかった。